川霧に浮かぶ、河童の贈り物

山あいの村に、小さな綿屋を営む兄妹がいた。夏の終わり、川霧が濃くなるころになると、決まって仕事場の前に濡れた足跡が並ぶ。兄は「河童がいたずらしてるだけだ」と笑うが、妹の茜は毎回、霧の奥で光る何かを見ている気がしてならなかった。

ある夜、茜は勇気を出して足跡を追った。川辺に着くと、緑の皿を戴いた小さな河童が、破れた蓑を抱えて座り込んでいる。「直し方がわからないのだ。明日の供養祭で着ねばならぬ」と泣きそうな顔で言う。茜は家に連れ帰り、祖母から教わった古い手縫いの技で蓑を繕った。

その礼に、河童は川底から真珠のように光る石を差し出した。「これを布に混ぜれば、霧をまとう衣が織れる」。兄妹が石を砕き、綿に溶かし込むと、仕上がった反物は朝露をはじき、夜になると蛍火のようにほのかに光った。

村の供養祭の日、茜がその反物で仕立てた羽織を着て舞うと、霧がすーっと晴れて月が姿を現した。人々は清らかな光に見入り、河童も川面から手を振った。それ以来、兄妹の綿屋は川霧の守りを受け、どんな湿り気の日でも布が傷むことはなく、河童の贈り物は村を潤し続けたという。